熊造や伝助、その他、卑劣や博徒や雲助の凝視している前で、生恥を更にさらけ出さねばならぬ恐怖と屈辱 ―― 菊之助は汚辱の布切を再び、キリキリ噛みしめながら、最後の気力を振り絞るようにして耐え抜こうとしたが、もう我慢がならなかった。

( 姉上っ、お許し下さいっ )

「ううっ」


 耐えきれず、遂に我慢の堰(せき)は崩潰(ほうかい)した。歯と歯の間に喰いこんだ汚辱の布を激しく噛みしめながら、むせ返るようなうめきを菊之助は洩らし、しっかりとつかんでいる熊造の両手の中へ汚辱の熱いしたたりを噴き上げるのだった。

「ああっ」

「あ、やりやがった」

 とたんに熊造はあわて気味に手を離し、お銀の手にある小鉢をひったくるようにすると、ほとばしりの先にぴたりとあてがうのだ。

「馬鹿野郎、この小鉢の中へ吐き出すんだ」

 菊之助が噴出させたとたん、お銀も熊造と一緒に狼狽気味に忙しく動きながら、小鉢の中へ一滴たりともあまさず搾り出させようとするのである。

「とうとうやってくれたわね。女のように可愛い顔していても、やっぱり男の子だねえ」

 お銀は情感のこみ上げた潤んだ眼差で、さも頼もしげに見つめながら絞り尽すように優しく揉み上げている。
 それじゃまるで牛の乳搾りをしているみたいだ、と酒を飲む博徒や雲助は大声で嘲笑し、いっせいにはやし立てている。
 お銀にゆるやかに揉みほぐされながら糸を引くように最後の一滴まで小鉢の中へしたたらせた菊之助は息も絶え絶えに疲れ切ったように、がっくりと前髪を前に垂れさせた。
 と同時に今まで鉄火のような屹立を見せていた肉塊は嘘のように萎縮していく。

「おい、若造、見な。よっぽど気分がいいと見えて、手前こんなに洩らしたんだぜ」

 熊造はうなだれている菊之助の乱れた前髪に手をかけ、ぐっと正面に顔を起こさせた。
 さも無念そうに固く眼を閉じ合わせている菊之助の上気した横顔を、熊造は小気味よさそうに見つめながら、さ、見ろ、と手にした小鉢を菊之助の気品のある鼻筋に近づける。
 耳たぶまで真っ赤に染めて、必死にそれから眼をそらせる菊之助の女よりも女っぽい恥じらいに胸を疼かせながらうっとり見惚れていたお銀は、

 「熊造さん、そんなにしつこくいじめるんじゃないよ。可哀そうに猿ぐつわの中でシクシク泣いているじゃないか」

 と、熊造の手唐子蜂を取り上げるのだ。
 しかし、ふと自分もその中に眼を向けて、ますます胸が緊めつけられるのか、頬まで染めたお銀は、ねえ、と甘ったるい声を出し、緊縛された菊之助のしなやかな肩先を小神から抱きしめるようにする。

「私しゃ、年甲斐もなく、お前に惚れちまいそうだよ。ああ、こんな思いはひさしぶりさ」