「フフフ、だけどほんとに可哀そうな若衆だね。親の仇を討ちに来て、こんな淫らな返り討ちに遭うとは ―― 」

 簪の柄に手をかけながらそういって笑うと、伝助もニヤニヤして、また、一つ、菊之助の尻を平手打ちし、

 「よ、どうでい。親の仇の手でケツの穴までむき出しにされた気分は。口惜しそうにうめいてばかりいず、何とかいったらどうなんだ」

 と、いい、深々と珊瑚玉の簪をくわえこんだ菊之助の滑稽な肉体を見て吹き出すのだった。

 「ハハハ、この若衆、尻尾(しっぽ)を生やしたぜ。狐の化け損ないか、手前は」

 手を離しても簪は菊之助のその部分にきつく喰いしめられて落下せず、それを目にした雲助達は手をたたいて笑いこけた。
 菊之助は気の遠くなるような羞ずかしめを血を吐く思いで歯を喰いしばり、必死になって耐えているのだ。
  ―― 耐えるのです。たとえ、そのような羞ずかしめに遭おうと熊造と伝助を討ちとるまでは、死んだ気持ちで耐え抜くのです ―― と、姉の浪路はいい残すように諭して、嬲りものにされるのを承知で引き立てられて行ったが、ああ、それにしても、武士であるこの身がこのような屈辱に耐え切らねばならぬとは ―― 菊之助は姉の言葉を非情なものに感じるのだった。


   しかし、菊之助にとって、この屈辱の中でも耐え切れぬ辛さは、自分の狂おしい無念さまで無視した如く、屈辱とは別に官能の芯が昂ぶり出した事であった。
 簪でえぐられたとたん、熱い刃物を突き立てられたような激烈な痛みが生じたが、寸時の後にはその苦痛が名状の出来ぬ鋭く甘い肉欲の痺れとなって、腰までが疼き出し、熊造の手に握りしめられている肉塊はそれに反応したように鉄火のような熱気を帯びて来たのである。
 それをすぐに感じとった熊造は、大声で嘲笑し、

「この若造、すっかり気分を出してやがるぜ。見てくれ、この張り切りようを」

 と、付根のあたりをむんずとつかんで、熊造は酒を飲む博徒や雲助達を得意そうに見廻した。

「こりゃ、凄えや。天にも届けとばかりに、おっ立てていやがる」

 雲助達は熱気をはらんで屹立した菊之助を眼にすると、ガラガラ声で笑い出す。我が身のあまりの浅ましさと情けなさに菊之助は真っ赤に火照った顔を右に左に揺さぶって激しい嗚咽の声を洩らすのだった。

 「ね、熊造さん。いつまでもそのようにしておくのは可哀そうじゃないか。そんなに血が昇っているんだもの。いいかげん、絞り出させておやりよ」

 熱っぽく喘ぎ続ける菊之助に情欲にむせた粘っこい瞳を向け、自分も菊之助につられたように激しい息使いになっていたお銀は、菊之助の足元に坐ってまた茶碗酒を飲み出した熊造に向かってせき立てるようにいった。