それでいながら一刀流の達人とは全く見上げたものでござる、などと定次郎はペラペラしゃべりまくるのだ。

「一体、私に何の御用があるというのです」

 ここにいる両人は父の仇、邪魔立て致されると容赦はしない、とばかり、浪路の切れ長の美しい瞳には敵意が滲み出ている。l

「拙者は三五郎一家の用心棒でござる。うちの若い連中が浪路どのの剣さばきで、相当な傷を負って帰って参った。となると、用心棒である拙者は黙っているわけには参らぬ」

 それにもう一つ、と定次郎はいった。

「そこにいる両人は拙者にとって身内も同然の男達でござる。いかに父の仇とはいえ、浪路どのに討たすわけには参らぬ。助太刀させて頂こう」

 というや、スラリと大刀を引き抜くのだった。

 浪路と菊之助の表情は強張った。

「やむを得ませぬ。どうしても邪魔立てなさるならお相手致しましょう」

 浪路は小太刀を定次郎に大して正眼に構えた。

「拙者も熊造達の助太刀を致す」

 重四朗も大刀を引き抜いて定次郎と並んだ。

「重四朗先生、道場で受けた羞恥をそそぐ時でござるぞ。、よろしいですな」

 定次郎は自分の横に立つ重四朗に励ましの声をかけ、じわり、じわりと浪路どの間合いをつめていくのである。

 「菊之助、あなたは熊造達を見張っているのです。決して取り逃がさぬように」

 浪路は自分も戦おうとする菊之助に声をかけ、後退させると、いざ、と小太刀の切っ先を上向かせ、定次郎の視線に視線を合わせた。