懐剣も奪われ、着物を脱がされ、その生まれたままの素っ裸を戸板にかっちりと縛りつけられてしまった浪路はもはや敵と戦うには臓物まで露わにした女の武器を用いるより仕方がない。
 そう感じると重四朗は魂が疼くような嗜虐の悦びを感じるのだった。

「重四朗先生、肝心なものを忘れているじゃありませんか」

 と、横で煙管をくわえ出した健作がニヤニヤしながら重四朗にいった。

「せっかくカラス婆の二人が腕によりをかけて作った姫泣き油。こいつを今使わない手はないでしょう」

 そいつを塗りこめられりゃ、自分の方から泣いて張形責めをおねだりするようになりますよ、と健作がいうと、

「なるほど、そうであったな」

 と、重四朗はそわそわして部屋の隅にあったすり鉢を定次郎に運ばせる。
 その鉢の中の青味がかってねっとりしたとろろ状の油に眼を注いだ定次郎は、よし、これは拙者がお塗り致そう、と舌なめずりするようにいった

「それから琳の玉を使うのをお忘れなく」

 と、健作は油紙にくるんだ金色の小さな二つの玉を重四朗の前に置いた。

「塗られたあと、痒みを訴え出したら、まずそいつを優しく含ませてやるんですよ。そうすりゃ痒さで慄える肉襞に操られて二つの玉がこすれ、コロコロ音をたてるようになる」

 肉の手管師と異名をとる健作の説明を重四朗はポカンと口を開けて聞いている。

「それから、頃を見て張形責めにかけてやるんです。激しくしごいちゃ駄目ですよ。気をやらせねえよう気を配って優しく、ゆっくりと ―― そうすりゃ、その美しいお武家の若奥様は悩ましい肉ずれの音と鈴の音をはっきりお聞かせになる」

「もういい、健作。貴様の説明を聞いているだけで、むずむず身体中が痺れてくる」

 重四朗は苦笑していった。

「それでは、定次郎。浪路どのに優しくその油をお塗りしろ」

「心得た」

 定次郎は浪路の腰部のそばにつめ寄ってどっかり腰を降ろすと、すり鉢の中の粘りのある油をすりこ木でゆっくりかき廻し始めた。